掲載紙:女性セブン
日付または号数:1986年1月23日号
主題:アグネス・チャン 新しい櫛で髪をとかし幸せを祈りました
副題:12月25日入籍、結婚報告
本文:  入籍の日、うれしさの涙が、彼女のメークを洗い流した。しかし、その”素顔”の美しさ・・・アグネスは、幸せな結婚生活への自信であふれていた。
 入籍から一夜明けて、師走の26日――アグネス・チャン(本名・陳美齢、30才)は、最後の衣装合わせに心を弾ませていた。純白のシルクサテンのウェディング・ドレス、蜀江錦(唐織の一種)の手法を生かした色打掛。そして、白無垢、ピンクのドレス・・・。
 そばで、夫の金子力さん(31才)が「きれいだね」と声をかける。
 挙式、披露宴は、1月11日に香港で。アグネスは、そこで、これらの衣装を身につける。入籍をすませたばかりのふたりは、その衣装を合わせながら、挙式当日の感激に思いをはせた。

 婚姻届は、横浜市の磯子区役所に提出された。12月25日、時間は午後1時を少しまわっていた。
 くつろいだジャケットの金子さんと白いワンピースに、胸に花束を抱いたアグネス――花束は、その日の朝、金子さんがアグネスに贈ったもの。そしてワンピースはこの入籍の日のためにふたりで選んだものだった。
 ふたりは、あらかじめ署名、捺印してあった書類を窓口に提出。かわりに『婚姻届受理証明書』を手渡された。この間、約15分、ずっと金子さんと体を寄せ合っていたアグネスが、ひとこと、こうきいた。
「私の、本名は?」
金子さんが答える。
「金子美齢・・・だね」
「ウワッ!」
 アグネスは、小さく強くそう叫ぶと、ほんとうにうれしそうに、あの大きな目を輝かせた。
  | アグネスと金子さんが婚約を公にしたのは、昨年10月21日、ひと月遅れで
  |催された彼女の30才の誕生パーティーの席だった。
  | 結納は12月17日。焼いた豚100匹、ケーキ300個、・・・など、アグネ
  |スの故郷・香港の習慣に則った結納の品々を記した目録が、代理
  |人を通じて、金子家からアグネスの家へ渡された。
  | 香港では、占い師が、社会的に大きな信用を得ている。アグネスと金子さんが入
  |籍するのにふさわしい”吉日”を12月25日としたのも占い師だった。
 12月25日の”吉日”には、いくつかの儀式が必要だった。
 そのひとつが、”上頭”と呼ばれる儀式。新しい櫛で花嫁になる女性の髪をとかし”たくさんの子供に恵まれ子孫が繁栄するように、そして、幸せになるように”と祈る儀式だ。そのため、髪をとかす役目は、”結婚して男の子と女の子を生んで育てている女性、つまり福(傍点)のある女性でなければならない。”とされている。アグネスの場合は、知り合いの女性編集者(41才)が、この役目をつとめた。
 そして、25日午前2時半――
「その時間ぢょうどに髪をとかしてもらうようにときめられていたので、部屋(アグネスの都内のマンション)の時計をみながら、あと10秒、あと5秒って、ドキドキしちゃって・・・」(アグネス)
 時刻ちょうどに、その女性が手のひらにすっぽりはいるくらいの大きさの赤いリボンが飾られた櫛で、アグネスの上を3回とかした。
「幸せになります」
 アグネスは祈った。
 それから10時間後、アグネスと金子さん両家の家族が集まり、もうひとつの儀式が行われた。家族が見守るなか、ふたりが太陽に向かって祈りをささげるのだ。
 場所は、横浜プリンスホテルの庭内に残されている旧宮家の別邸だった建物の一室。金子さんの両親と弟、アグネスの母親が一緒だった。
 儀式に先だって、アグネスは、
「この日のために用意した歌」を英語で歌った。そして、金子さんは、こうあいさつをした。
「理解をしていただけなければできない結婚でした。いまは、とても感謝しています」
 アグネスの母親の手をとり金子さんが、さらに続けた。
「アグネスを必ず幸せにします。よろしくお願いします」
 まず、アグネスの目に、それから金子さんを含めたみんなの目に涙があふれた。目をまっ赤にしたまま、ふたりは、大きな窓の外に見える太陽に向かって手を合わせ3度、祈りを込めて頭を下げた。

 区役所にあらわれたアグネスの目には、まだ赤さが残っていた。メークもとれてしまっている。照れたように、アグネスがいう。
「今日の私の顔、もうグシャグシャ。でもいいの。幸せになるんだから。いま? もう逃げられない、もう逃がさない・・・この気持ち、わかってもらえますか」